白血病や血液難病などの移植治療に使われます。
それによって、多くの患者さんの命が救われます。
白血病等の血液のがんやあるいは、造血幹細胞が減少し、血液が作られにくくなる病気の再生不良性貧血等の治療法の一つとして病気の血液細胞を健康な細胞と取り替える造血幹細胞移植があります。移植の方法には患者自身の造血幹細胞を移植する自家移植や他人から採取した造血幹細胞を移植する同種移植があります。同種移植には、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、そしてさい帯血移植の3種類がありますが、他人から採取した細胞を移植するため、移植されたT細胞が患者を攻撃して発症するGVHD(移植片対宿主病)やGVHDを防ぐために免疫抑制剤を使用することにより感染症にかかりやすくなるという欠点があります。一方、移植されたT細胞が患者のがん細胞を攻撃するGVL(移植片対白血病)効果により再発を抑制する効果が期待できます。なお、自家移植は、GVHDのリスクはありませんが、患者自身の血液からの病気の細胞が混入されるリスクがあります。
血液成分である赤血球、白血球、血小板等の血液細胞は、形態も働きもそれぞれ異なりますが、すべて骨髄中に存在する造血幹細胞という共通の細胞から作られています。そして、1982年、日本人の研究者の中畑龍俊らによってさい帯血中にも造血幹細胞が存在することが報告されました。造血幹細胞の形態は、小型の単核細胞で分化と自己複製の2つの特性があり、特徴的な細胞表面抗原としてCD34を持ちます。
骨髄移植には、患者の家族(特に兄弟)からHLAが適合するドナーを探し、HLAが適合するドナーから移植する血縁間移植や骨髄バンクからドナーを探す非血縁者間移植があります。骨髄移植は、ほぼ確実にドナーの骨髄から移植に必要な造血幹細胞の細胞数を採取することができる利点がありますが、非血縁者間でドナーを見つける場合、HLA(HLA-A、B、DRの遺伝子レベルの完全一致が原則で、最近では、HLA-Cも合わせるようになってきています)が適合する確率は極めて低く、HLAが一致するドナーがなかなか見つからないことがあります。また、移植が決定しても決定から移植までの期間が非血縁者間移植では3~6カ月と長い期間が必要です。移植した造血幹細胞が生着して、造血が開始されるまでに2~3週間かかりますが、骨髄移植は、GVHDのリスクがやや高いという欠点があります。また、骨髄から造血幹細胞を提供するドナーにとっては、成人の患者に移植する場合、600~900mlの骨髄液を採取する必要があり、そのためには、全身麻酔や採取後の痛み、そして自己血保存、4日間程度の入院が必要であるという大きな負担があります
骨髄移植や末梢血幹細胞移植に対してさい帯血中に含まれるT細胞はその働きが未熟なため、GVHDのリスクが低く、HLA適合度は、HLA-A、B、DRの抗原レベルで、しかもHLAが1~2座不一致でも移植可能なため、HLA適合するさい帯血が見つかりやすいという長所があります。更に、さい帯血が凍結保存されているため、移植決定から移植まで2週間~1か月という利点があります。しかし、さい帯血は、少量しか採取できないことから、 移植する造血幹細胞数は成人には不十分なことがあり、生着不全が多いという短所があります。また、さい帯血中の造血幹細胞は未分化傾向が強いため、骨髄移植と比較して移植後生着するのが遅いため、感染症の危険性が高まります。
HLAの型(抗原)は1つの染色体上にA座,B座,C座,DR座,DQ座,DP座の遺伝子型が近接して並び、1つのセットを形成しており、それらの遺伝子群を「HLAハプロタイプ」と呼びます。「HLAハプロタイプ」は父親と母親から遺伝するため、2セットとなります。HLA-A,B,C,DR,DQ,DPには、それぞれの型に多くの種類(抗原レベル)があり、また、更にそれぞれに数十種類のタイプ(アレルレベル)があります。そのため、その型の組み合わせは、数万通りとなります。両親からその半分ずつ(1セットずつ)が遺伝するため、兄弟間でも一致する確率は低く、非血縁者間では、日本人に多いハプロタイプの組み合わせを持つ人は数百分の1の確率で一致するのですが、日本人に少ないハプロタイプの組み合わせを持つ人となると数万分の1の確率でしか一致しません。
さい帯血移植、骨髄移植そして末梢血幹細胞移植などの造血幹細胞移植や臓器移植では、自分のHLAのタイプと合わないものはすべて異物と認識し、攻撃を始めるため、HLAの適合性が重要となります。骨髄移植、末梢血幹細胞移植については、HLA-A,B,C,DRのアレルレベルでの適合性が重要であり、更に現在では、HLA-DQ,DPアレルレベルでの適合性も重要であることが分かってきました。それに対して、さい帯血移植では さい帯血の中に含まれるT細胞の働きが未熟なため、GVHD(ドナーのT細胞が患者体内で増殖し、患者組織を異物と認識して破壊する病態)のリスクが低く、HLA-A,B,DRの抗原レベルの6座中2座までの不一致が許容されるという利点があります。
さい帯血とは
さい帯血とは、ママと赤ちゃんを結ぶへその緒(さい帯)と胎盤に流れる血液のことです。
このさい帯血の中には血液細胞を作り出す造血幹細胞がたくさん含まれています。
出産時にしか採取することができないとても貴重な血液です。 通常は出産後に廃棄されてしまいます。
さい帯血移植とは
さい帯血の中には、赤血球、白血球、血小板などを作り出す造血幹細胞がたくさん含まれているため、移植によって白血病などの血液難病を患った患者さんの命を救うことができます。
骨髄移植を希望する患者さんの中には、ドナーがなかなか見つからない、ドナーとのコーディネートに時間を要してしまうなど、病気の進行が切迫して待つことが難しい場合があります。このような患者さんにとって、さい帯血移植はすでに凍結保存されており、コーディネートの必要がないことから、移植を受けるチャンスを得られることになります。また、骨髄移植と比べて、HLA(白血球の型)がすべて一致しなくてもよいというメリットもあります。
さい帯血移植が有効な主な病気
さい帯血移植と骨髄移植の違い
さい帯血提供のお願い
さい帯血の採取は無事に赤ちゃんが生まれ、へその緒(さい帯)を切り離した直後、後産といわれるまだ残っているさい帯と胎盤から採取しますので、赤ちゃんにもママにも痛みや危険は全くありません。採取は負担なく安全に行われます。一人でも多くの患者さんを救うため、さい帯血の提供にご協力をお願いします。
さい帯血ドナーと骨髄ドナーの違い
- 出産を控えた妊婦さん
- 採取に痛みや危険がない
- 同意書等の書類に記入
- 検査用血液を10㏄程度採取します
- ドナー登録制 提供は20~55歳の健康な方
- 数日の入院と全身麻酔で採取
- 本人だけでなく家族の同意が必要
- 自己血輸血が必要
「提供の条件」について
移植に用いるさい帯血は、高度な基準が設られています。その内容をよく理解して提供にご協力いただければ幸いです。
さい帯血の提供以外に協力できることはありますか?
さい帯血は、骨髄と比べてまだあまり知られていません。
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